――いてくれればいいが。
電話のような通信手段がある世ではない。
急な訪問で会える可能性はそう高くはないし、特に蒼絃が邸にいる確率は低かった。
十日近く行方をくらますこともあるので、今日の訪問もそう期待はしていなかったが。
牛車を降りた碧月を出迎えるように、風が音を運んで来る。
――いた。
蒼絃は笛を吹いているらしい。
勝手知ったる親友の邸。
式神なのか人間なのかわからない使用人も、「東の釣殿にいらっしゃいます」と言うだけで案内はない。
人の気配の少ない邸の濡れ縁を進んだ碧月は、近づく笛の音を感じながら釣殿へと出た。
蒼絃はいつものように、白い狩衣を着ている。
その背中を見つめながら後ろに立つと、彼は静かに笛を置いた。
電話のような通信手段がある世ではない。
急な訪問で会える可能性はそう高くはないし、特に蒼絃が邸にいる確率は低かった。
十日近く行方をくらますこともあるので、今日の訪問もそう期待はしていなかったが。
牛車を降りた碧月を出迎えるように、風が音を運んで来る。
――いた。
蒼絃は笛を吹いているらしい。
勝手知ったる親友の邸。
式神なのか人間なのかわからない使用人も、「東の釣殿にいらっしゃいます」と言うだけで案内はない。
人の気配の少ない邸の濡れ縁を進んだ碧月は、近づく笛の音を感じながら釣殿へと出た。
蒼絃はいつものように、白い狩衣を着ている。
その背中を見つめながら後ろに立つと、彼は静かに笛を置いた。



