――李悠は宮中に来る前から花菜姫を、本当に知っていたのか?
だとしても、宮中に来てからの彼女にそんな様子を見せなかったのは何故だ?
それほど想っていたならば、隠そうにも隠しきれないのが普通だろう。
現に『月君と花菜姫は、もしや』と、そんな噂が立っていたことは碧月の耳にも入っていた。
弘徽殿の女御を通して接点が多かったことや、男に襲われた花菜を助けたことが噂の元になっていると容易に想像できるが、李悠はどうだろう?
誰が想像しただろう?
誰一人予想もしなかったに違いない。
宮中の女官たちは転げるようにして走り回り、今回の縁談話を広げたという。
『ええ?』悲鳴にも似た女官たちの声が、内裏のあちらこちらから聞こえてきた。
それもそのはず、ただの一度も誰の口にも上らなかったからこそ、今回の結婚の儀は大きな驚きをもって伝わったのだ。
何故、なぜ李悠は、結婚まで考えながら何もしなかった?
そんなことを悶々と考えながら、碧月が向かったのは藤原蒼絃の邸だった。
蒼絃が宮中に来る前の花菜を知っていることは周知の事実である。
彼ならば、何か知っているのかもしれない。
そう思ったからである。



