『あなたは一体、どこを見ているの? あの子の着物の衿、気づいてる? 汚れていたことは一度もないわ。あんなに清潔感のある娘を見たことは初めてよ』

弘徽殿の女御に散々言われて、ある時気づいた。
花菜姫から漂う、決して強くはない控えめな甘い香り、まるでそこに花が咲いているかのような清潔な香り。

――愚かだった。

表面しか見ていなかった。

その表面ですら、彼女は誰よりも美しかったというのに。

艷やかな髪、抜けるように白い肌。生き生きとした瞳、愛らしい唇。
心を和ませる明るい笑顔。

女官試験の時のことも、今思い返せばむしろ健気さが際立ってくるというのに。

全ては遅いのか……。

額に手を当てて俯いた碧月は、ハァと大きくため息をついた。