貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)

――彼が人鬼丸? ほんとうに?

気もそぞろに、花菜は髪についた枯れ葉を払った。
男のいたずらにより解けてしまった髪は汚れてしまったが、いまは大切な髪よりも、さっきの男のことが気になる。

「でも嗣爺。人鬼丸って、大きな赤い口をした鬼じゃなかったの?」

最近、京は人鬼丸の話題でもちきりだ。

市に買い物に行った時など、花菜も噂を耳にする。

実は鬼のような姿であるとか、天狗だとか、美しい妖怪だったとか、様々な目撃談がまことしやかに飛び交っていた。
市の商人の話では、その中でも赤い口の鬼だという話が一番真実味があると、つい最近聞いたばかりである。

「色々聞いたけど、普通の人間だっていう話は聞いたことがないわ」

「噂には尾ひれが付くものですからな」

「それもそうよね、鬼なんているわけないもの。それにしても、もしあの人が人鬼丸だったらなんだかちょっとうれしいわ。天狗でも妖怪でもなくて人だもの」

 花菜も多くの庶民のように、人鬼丸のファンだ。