「李悠さまは親王さまで、今の東宮さまのお兄さまにある方なのよ。臣下に下られたのも、李悠さまのご希望らしいわ」
「なるほど」

「見目麗しい上に大変優秀な方で、今上さまも東宮さまも李悠さまを大変頼りになさっているということよ。まだお若いけれど政(まつりごと)の席での李悠さまには、老長けた大臣の方々も一目置かれるというわ。権力が一か所に集中しないよう、常に気を配っていらっしゃるそうで、おかげで今の宮中は大きな波もなく平和でいられるということよ」

「なんだかすごいわ……。非の打ちどころがないのね」

「そうよ。そして李悠さまのすごいところは、いまだ未婚なことなのよ。あちこちの家から是非とも我が家の娘をと言われているのに、ずっと先延ばしにしていたの。時々通われる恋人がいらっしゃるという噂はあるけれど、それだけよ。それが」

ふたりの目が、花菜に向けられる。

「花菜、私はね、うれしいのよ。友達として本当に鼻が高いわ!」

目を泳がせながら俯く花菜に緑子は溜め息をつく。

「それがまさか、家出をしていたなんて。どういうことなのよ」

そこには三人の他に誰もいない。
それでも憚るように、朱鳥は小さな声で聞いた。

「花菜は李悠さまのことが、キライなの?」