「では聞いた通りそのまま申し上げます。『身に余るというか、身に余りすぎるお話なのは重々承知なのよ。でも、気が重いの』とおっしゃるので、好みの男性を聞いたのです。それで――」

「それで?」

「背が高くて、男らしくて、日焼けした小麦色の肌が似合って、馬とか颯爽と走らせちゃう、と……」

李悠の眉がピクリと動く。
「それは随分具体的だな」

視線を落としたままトキは頷いた。
「はい。恐らく誰か心に想う方がいるのかと」

唖然としたまま、李悠は左右に首を揺らす。

「ありえない。どうしてそうなるんだ」

そう言われてもトキにも理由はわからない。

「殿がお渡しになった文に、返事はないのですよね?」

「ああ。なにも」

李悠は最初に藤盛家に結婚を申し込みに行った。

正式な結婚の場合、まずは本人にはなく親に話しをする。これはこの世界での決まり事である。
本人には会わず、文を残した。
ここまでの手順にはなんの問題もない。

となれば、考えられるのは文、いわゆるラブレターに原因があるのか?。

「文が原因というのか?」

「歌はお詠みになったのですよね?」

「ああ詠んだ。だがどうしても詠めず、引用はしたが……」

怪訝そうに、うーんと唸る主人を見つめながら、トキは心でため息をつく。

――やれやれ。

我が主は、この都で最も優れた人物である。
眉目秀麗、頭脳明晰、時には盗賊に身をやつしてまでも人民の幸福を願うという、尊敬して止まない主人であるが、ひとつだけ苦手なことがあった。

歌を詠むということである。