「はい。ご報告にあがりました。失礼いたします」

几帳の影から現れた男の顔を、高灯台の明かりが照らす。
目鼻立ちの美しい男だった。

まるで女のように――。

彼は李悠の腹心のひとりトキであると同時に、他の顔もあった。
烏帽子を被り、狩衣を着ているその姿は見紛う事なき男であり実際男性であるが、花菜と道中を共にした女トキ、その人である。

彼はもともと髭が薄かったし、声も高かった。
身長も女性としては背が高くても、男性としてはそう背の高いほうではない。

喉には隠せない喉仏があるが、女性のトキになる時には布を巻いて隠している。寒い冬には自然なことなので、誰にも不審に思われることもない。
女性に化けるには好条件の外見の持ち主なのである。

「無事、現在は藤原家の別邸に入られました。藤原蒼絃は不在。彼の妹君朱鳥、女官の緑子と共にいらっしゃいます」

「そうか」

簡単な報告を済ませたところで、トキは退出するわけでもなく何かを迷うように黙りこんだ。

「なにかわかったのか?」

花菜が家を出てスミレの家にいるということは、トキから聞いていた。
トキはもともと貴族社会以外の状況を知るために、李悠の指示によりスミレのところに行っていた。
思わぬ偶然から、花菜の家出を知ったのである。