でもそれは叶わない。

李悠さまと結婚をしたならばもう二度と彼には会えないだろう。
裕福な家に嫁いだ自分を、彼が助けてくれる理由はなくなってしまう。

我が家がカイに助けてもらっていたことは、両親も知らない花菜と小鞠と嗣爺だけの秘密である。
彼の存在を今後ずっと忘れてように生きていかなければいけないのだろうか。


「もうすぐですね」

「話をしていたからあっという間だったわね」

いつの間にか目標としていた竹林に入っていた。
手入れの行き届いた竹林を抜ける道を進めば、奥に藤原家の別荘がある。

「うわー、素敵」

道の両脇は見渡す限り竹だ。
手入れがされているのだろう。雪化粧が残る竹の間から、燦々と明かり射している。

「空気がきれいね」

汚れを知らない清らかな空気を大きく吸い込むと、それだけで心が洗われたように気持ちがよかった。
トキも同じように息を吸う。

「都はなんとなく埃っぽいですからね、生き返った気がします」

「ほんとうに」

やがて竹林が開け、邸が現れた。