「トキさんのお兄さまは、結婚は?」

「うちの兄も結婚に興味はないみたいです。兄妹揃ってそういったことには縁がないようで」

「お兄さまは元服されたあと、どうしていらっしゃるの?」

「兄は出世にも興味がなく、今はさるお方の舎人となって使えております」

「殿方で結婚にも出世に興味がないなんて、珍しいわね」

「殿上人になれば、それなりの体裁を整えなければなりませんから。衣食住の全て、使用人、馬、牛、牛車。途方もないことです。自由で気ままな暮らしの方が兄も私も好きなのですよ」

「うらやましいー、トキさん! 私も家族が大切だから頑張って宮仕えもしたけれど、ひとりになったらトキさんみたいに自由に生きたい。心からそう思うわ」

――そうすれば、もう少しカイの近くに行けると思うわ。

自分の気持ちがはっきりとわかったことで、それまで霞んでいた未来の夢が、形になって花菜の脳裏に浮かんだ。
カイのそばで、生きていけるならどんなに幸せなことかしら。