「いっそ、トキさんみたいに自由の身になりたいくらいよ。両親が元気だし、一緒に暮らしている皆の生活もあるから今の暮らしを捨てることはできないけれど、貴族であることに未練はないわ」

「ハナさんはおもしろいですね。見初められる理由がわかる気がします」

「だから、それは」

「もしかして他にお好きな方がいらっしゃるんじゃないんですか?」

「え?」

「たとえば碧の月君とか」
「ど、どうして碧の月君が」

「月君の花菜姫贔屓は、宮中でももっぱらの評判だそうじゃないですか」
「え? そ、そんなことはないわよ。お姉さまの弘徽殿の女御にはよくして頂いたけれど、むしろ月君には文句ばかり言われていたんだもの」

「そうですか? 花菜姫を襲った男をふたり投げ飛ばして退治した時の月君は、鬼の形相だったとか」
「あっ、それは――。えっと、まぁ、その、本当のことですけど」

「月君と花菜姫のおふたりは相思相愛想と思われていたところに、李悠さまの求婚。いま、白狐の花菜姫と言えば都で一番のモテ女という有名人ですからね」

「ご、誤解ですっ! でも、そんなに噂になっているんですか?」

クスッとトキが笑う。
「ええ、貴族社会で知らない者はいないでしょうね。私の耳にまで入ってくるのですから」

それには言葉が出ず、花菜は絶句した。