「本人が書いたものかはわかりませんけれど、かな文字でした」

かな文字は基本的に女性が書く文字である。貴族の男性が書く文字は漢字だ。

花菜は、ふと考えた。
人鬼丸が字を書けるということは、どういうこと?

――そういえば、考えたことはなかったけれど、傀という字は書きなれた筆の動きをしているわ。

そのかな文字はどんな筆跡なのだろう?

「手紙は他にも?」
「いいえ。それだけです」

「もらった文は取ってあるの?」
「残念ながら燃やしました。検非違使に見つかってはいけないですから」

「あ、そうか。それもそうよね」

「人鬼丸に会ったことは?」

トキはフッと笑う。
「そんなに簡単に会えませんよ。それに会ったとしても、本物の人鬼丸なのかわからないだろうし」

「え? そんなに偽者がいるの?」

「いますよ。偽者なのか一味なのか、わかりませんけどね。少なくとも人鬼丸を名乗る盗賊は両手の指を折って数えても足りないです」