「今日は雲が多いから寒そうだし、おにぎりの他に、キノコ汁も売ってみてはどうですか?」
「あーいいね。試しにこの竹の器を使って売ってみようか」
東市で販売するおにぎりやキノコ汁の用意を手伝ったあと、花菜も出かける準備をはじめることにした。
「スミレさん、それじゃ私はお友達のところに出掛けてきますね」
「ああわかったよ。花菜、トキを連れていきな」
「え? ひとりで大丈夫ですよ? 明るいうちには帰ってきますから。そんなに遠くもないですし」
ここから藤原家の別荘までは、歩いてほんの半刻、一時間くらいの道程である。
途中、危険を感じさせるようなところはない。
「ダメだよ。困るのはあんたじゃなくて、あたしなんだ。万が一にも何かあったら、あの子に顔向けができないだろ?」
スミレは小鞠に頼まれているらしかった。
聞けば、前もって礼は貰っているから、一人では行かせられないのだという。
トキは、普段スミレと一緒に東市に行っている女性だ。
家の中にいることは滅多になく、裁縫をしているのは見たことがない。主に薪割りなどの外仕事を担当しているようだった。



