貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)

「ああ、人鬼丸さ。この干し魚とか、あそこの干し肉もそうだよ。いつの間にか置いて行ってくれるんだ」
「――そうなんですか?」

「ありがたいよ。自分たちだけじゃ限界があるからね」
「あの……。人鬼丸は、あちこちにこんな風に?」

「ああそうさ、結構聞く話だよ。どうやって知るんだかわからないけど、欲しい物を置いていってくれるのさ、時には薬草なんかもね」

「薬草?」

「あたしらは医者なんかにかかれないだろ? この辺じゃ手に入りにくい薬草を置いていってくれるんだよ」
「そうだったんですね」

「この字、“ひとおに”って読むんだろ?」

「え?」

スミレが指を指すのは『傀』という文字。

いいえ、これは“ひとおに”ではなくカイですよと言おうとして、今更のようにあることに気づいた。

傀という字は『人』と『鬼』で成り立っている。

――それで人鬼丸と呼ばれることになったのね。

この世界のリテラシィは低い。
読み書きが共に出来るのは貴族くらいだろう。

スミレのような商人は、商売柄いくらか読めるようだが、ほとんどの人が文字を読むことはできない。
漢字ならばなおさらだ。

考えた末、花菜は「そうですね。人と鬼です」と答えた。

それも間違いではないし、自分が傀だと思っているだけで、本当は傀ではなく人鬼かもしれないと思った。