通常の結婚なら通い婚だが、李悠は今の邸に花菜を迎い入れたいということだった。
随分前に母を亡くしているし家族はいないので是非来てほしいのだと。
両親は正妻として迎い入れてもらえる証拠だと言ってとても喜んだ。
でも花菜には少しもうれしくはなかった。
「知らないお邸に行くなんて気が重いわ」
そのつぶやく声は弱弱しく力がない。
いつも誰よりも元気なはずの花菜が、小鞠の目には途方に暮れた迷い子のように見えた。
「姫さま、小鞠には正直にお話ください。姫さまはそれほどお嫌なのですか?」
「嫌っていうか、とにかく不安だし……。いっそ結婚なんてしなくていいのに」
小鞠が身を乗り出して小声で囁く。
「姫さま、いっそお逃げになりますか?」
「え?」
花菜は目を丸くして小鞠を振り返った。
「もしかしたら姫さまは他に想っていらっしゃる方がいるのではないですか?」
花菜にしか聞こえないだろう小さな声で小鞠は言う。
それが誰なのか名前を言わないが、花菜には誰のことを言っているのかがわかった。
今となっては、口にしてはいけない人……。
随分前に母を亡くしているし家族はいないので是非来てほしいのだと。
両親は正妻として迎い入れてもらえる証拠だと言ってとても喜んだ。
でも花菜には少しもうれしくはなかった。
「知らないお邸に行くなんて気が重いわ」
そのつぶやく声は弱弱しく力がない。
いつも誰よりも元気なはずの花菜が、小鞠の目には途方に暮れた迷い子のように見えた。
「姫さま、小鞠には正直にお話ください。姫さまはそれほどお嫌なのですか?」
「嫌っていうか、とにかく不安だし……。いっそ結婚なんてしなくていいのに」
小鞠が身を乗り出して小声で囁く。
「姫さま、いっそお逃げになりますか?」
「え?」
花菜は目を丸くして小鞠を振り返った。
「もしかしたら姫さまは他に想っていらっしゃる方がいるのではないですか?」
花菜にしか聞こえないだろう小さな声で小鞠は言う。
それが誰なのか名前を言わないが、花菜には誰のことを言っているのかがわかった。
今となっては、口にしてはいけない人……。



