貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)

見知らぬ使用人にも遠慮があるし、邸にもまだなじめない。

この新しい邸は、元は大納言邸だったという。
大納言が亡きあと夫人が住んでいたが、長岡京の別邸のほうに移り住むことにしたとかで紹介され、花菜の父が買い求めたのである。

先住の優雅な暮らしぶりが今も残っている庭園はうねうねと遣り水が流れ、そこかしこに植えられていてる樹木が季節を通して楽しめるようになっている。
今は、梅の花がほころびはじめていた。

「このお邸はとても素敵だけれど、まだ自分の家だという感じがしないわ」

「それはまだ日が浅いからですよ。落ち着けばお庭くらいは出られます、きっと。それまでの辛抱です。あ、そうそう姫さま、もう少し暖かくなったら畑に野菜を植えましょう」

「そうね! 暖かくなったら」
一瞬瞳を輝かせたが、またすぐ花菜はぼんやりと目を落とした。

「でもその頃には私、このお邸にはいないのかも」