貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)

「じゃあね、花菜、がんばって」
「ありがとう」

緑子は時々振り返り、その度ににっこりと笑って手を振る。
花菜も笑顔で答えた。

やがて親友の姿が見えなくなると、花菜は振り返った。

見つめるのは、いままで散々通った弘徽殿。

今日からはここが自分の居場所になる。

「よろしくお願いします!」

「こちらこそ、どうぞよろしく。さあ、どうぞ奥に。女御さまが首を長くしてお待ちですよ」
「はい。ありがとうございます」

弘徽殿の女御付きの女房達は、最初からずっと花菜に優しい。

亡くなった女御の父が厳選に厳選を重ねて集めた女性しかいないということもあるのだろう。花菜を卑しむような女房はひとりもいなかったし、共に働くことを喜んでくれた。

「花菜姫が来てくれてうれしいわ。あとで刺繍を教えてね」
「はい。もちろんです」

にこにこと微笑みながら付き添ってくれる先輩女房と一緒に、女御の前に出た。

「花菜でございます。これからどうぞよろしくお願いします」