ふいに、風がガラガラという音を運んできた。

天を仰いでいた男は、音のするほうをチラリと見やる。

視線の先は闇のままで何も見えないが、男はヒタヒタと走り、柳の影に隠れて一点を見つめた。

音の主に興味があるのは、月も同じなのだろう。
より明るさを増すようにして、現れた影を照らす。

それは一台の牛車だった。

屋形に描かれた大きな八葉の文様。
漆が塗られた大きな車輪は、闇と同じ黒だというのに艶々と光を放った。

キラリと月光を反射する金や銀の装飾。よく見れば貝殻を加工した螺鈿細工や紅いサンゴに真珠の飾りまでついているようだ。

眩しいばかりに飾られた八葉車は、闇の中で煌々と浮き上がる。