貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)

花菜が男達に襲われる少し前。家司は、月君を探していた。

見つけた時、彼は庭にいた。

池の縁に立って、顔を少し上げて、ジッと何かを見つめていた。

月君は、釣殿に立って空を見上げている花菜を見ていたのである。

彼のその瞳は瞬きも忘れたようだった。
心を奪われたような、その真剣な瞳を見て、家司は声を掛けられなかった。

さて、どうしようかと思ううち、男達が現れて、驚いたのはそれからの彼の行動だった。

聞いたことがない怒声で男たちを怒鳴りつけ、見たことがないほど乱暴に男ふたりを投げた。

普段から冷静で、というよりは何を見ても冷ややかな彼のどこに、あれほどの熱い感情があったのか。ただただ驚くより他になかった。

これが姉君である弘徽殿の女御に関することならわかる。
でも、相手は普段から毛嫌いしているはずの花菜姫だ。

男たちを止めるのはわかる。それは当然の行動だが、自分の知りうる彼なら男たちに止めろと冷たく言い放ち、女官を呼んで花菜を介抱させるだろう。

少なくとも投げ飛ばすとか、自ら介抱するなどしないはずなのだ。
とにかく家司には、目や耳を疑うような光景だった。