貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)

それから一刻、三十分ほどしただろうか。
塗籠の出入り口になる妻戸を少し開けて、月君は中の様子を伺った。

花菜はスースーと寝息をたてて寝ている。

「大丈夫ですか?」
声の主は橘家の家司、いわば執事だ。

彼は橘家の家司であると同時に貴族でもある。
うなずいた月君は、ハァと溜め息をつく。

ふたりはそこから少し離れ、月の明かりが届くところで腰を下ろした。

「もしかして、夜明けまでこちらにいらっしゃるおつもりですか?」

「ああ、仕方ないだろう。このままひとりにはしておけないし」

「ですが……」
なにしろここは寒すぎる。暖を取るものが何もない。
誰か他の者を呼びましょうかと言おうとしたが、家司は思い留まった。