そして迎えた宴。

「うわ! なんて素敵な唐衣なの」
「ふふ、ありがとう」

唐衣(からぎぬ)は十二単の一番上に着る丈の短い着物だ。

緑子には言わなかったが、昨日届いた荷物の中には『傀』からだという、この美しい白銀の唐衣も入っていたのである。

昨日届いた新しい衣のおかげで、花菜も他の女官たちと並んで御簾から衣を出して見せる出衣(いだしぎぬ)をすることできた。

久しぶりに仲のいい女官たちと沢山笑い、ちょっとお酒も飲んで、心から楽しんだ。

――そして。
夜になり、やがて人々がポツリポツリと帰り始めた頃。

花菜は人知れず誰もいない西の釣殿に渡り、月を見上げた。
手が届きそうな大きな月だ。

見上げるうち……。

母の好きな香の匂いに包まれたせいなのか。

お酒を口にしたこともいけなかったのかもしれない。

ついさっきまで楽しかったはずが、哀しさが込み上げて仕方がなかった。