「もう少しだけ待ってね。お正月の行事さえ済めばこちらに異動してもらうから」

「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、心配なさらないでくださいね。お友だちもいますし、何という事もないですから」

こんな風に気にかけてくれる人がいるということが、どれほどの力になるか。この上なくありがたいと、心から思う。

「もっと色々作り方を説明して、届けてもらうようにお願いしておきますね」

それでも長居は無用だ。
さぼっているとか、女御さまに取り入っているとか、また言われてしまう。

礼を言って、花菜は早々にその場を辞した。


花菜がいなくなると、それまで黙っていた月君が怪訝そうに女御に聞いた。

「あの子は虐められているのか?」

「ええ、明るい子だからああして笑っているけれど、辛いはずよ。だからって私が手を差し伸べれば、それがまた彼女を追い詰めるでしょうし……困ったものだわ」

最近、弘徽殿に来ても花菜と顔を合わせることがなかったし、花菜が作ったという菓子を出されることもなかった。
どうかしたのか?と、彼なりに疑問に思っていたのかもしれない。

「どうりで……」と言ったきり、月君は神妙に口を閉ざした。