「なんですか、その言い方は。ごめんなさいね、この子も一度食べてみればわかると思って」

やれやれと、内心ため息をつく。

食べてみた感想が、怪しい味ではないとは。
褒められてもいないのだからどう答えていいのかわからない。

花菜は苦し気に作り笑いを浮かべた。
無理して食べなくていいわよ!と言ってやりたい気持ちを堪えるのが精一杯である。

これ以上ここに居ても不愉快な思いをするだけだ。そう思い席を立った。

「失礼いたします」

――大嫌い大嫌い大嫌いっ!

三回言ってやったぞと、憤慨しながら大股で部屋を出る。

唐菓子を取り上げられそうになったあの日以来、月君とは時折すれ違う。

会いたくないと思うのに、姉想いの月君は頻繁に弘徽殿に来るし花菜も頻繁に女御に呼ばれるのだから仕方がないことだったが、すれ違う度にふたりは見えない火花を散らしているのである。

花菜は扇で顔を隠しながら、必ず一度はギロリと睨むようにしている。

対して月君はその視線を、より強い睨みで返す。

『ここを通るんじゃねーよ』

『私だって、あんたに会いたくないわ』

口にこそしないが、そういう睨み合いだ。