颯人のシャンプーはフェイスラインに当たるお湯から気持ちがいい。
何といっても昔ながらのサイドシャンプーを私にする。
お湯溜めが半端なく地肌に届いた時の感覚、まるで湯の中に頭があるように感じる。
私の長い髪を桶のように、湯が頭皮を休ませる。
「 愛月、アウトバスしてないだろ 」
「 すみませんね、もうなくなったもんで 」
「 しょうがねー奴 」
文句言うけど、颯人は私の髪を大事にしてくれる唯一の奴。
美容師だからではなく、私の髪だから。
それなのに、何をどうしても恋人関係には発展しないから不思議だ。
シャンプーが終わり、トリートメント。
これは髪の内側から補修保湿してくれるトリートメント。
香りもよく指通りが良くなり潤いが髪一本一本をコーティング。
そして仕上げは洗い流さないトリートメントを使い乾かす。
「 とりあえず連絡する、今日は店長が休みだしな 」
「 了解。じゃあまた 」
「 おう。愛月、髪乾かさずに寝るなよ 」
「 わかってる、乾かします!」
言われなくても!…って乾かさないけど、いつも。
ダメってわかってるんだけど。
「 鈴木先輩、髪乾かさずに寝てるんですか?臭くなりますよ、傷むし 」
「 誰に言ってんの、誰に!」
まったく… 可愛い顔した奴に言われたら乾かさずにいられますかって。
ちゃんとするわ、臭い頭なんて思われたくないし。
髪にだって、触れてもらいたいもん。
“先輩の髪、サラサラしてますね”
とか言って私の髪口元にさ~ それで私の事見るの……
きゃー!!
「 先輩?お昼どうしますか?」
あ…… お昼… そうね、ご飯は食べなきゃね。



