「聞いて楽しいか?」
「えっ?」
「あいつのことなんて興味ないはずだろう?」
「まあね」

俺のプロポーズを咲良が断ってから、俺たちは会っていない。
時々ジムで顔をあわせることはあっても、お互いの家へ行ったり待ち合わせて時間を過ごすことはしていない。
もちろん、キスすらしていない。
それが最低限のけじめだと思っている。

「じゃあ、この後オーディションだから行くわ」
伝票を手に席を立つ咲良。

「ああ、ここはいいよ」
「ごちそうさま」
伝票を置き笑顔を向ける。

「いいよこれくらい。それより、来週実家に帰るんだ。マンションもしばらくは借りたままにするけれど・・・」
「そう、分かった。何かあればメールするわ」
「ああ。オーディション頑張れよ」
「うん、ありがとう」
完璧なウインクをして、咲良はカフェを出て行った。

さすがモデルだけあって、後ろ姿も美しい。
なぜだろう、俺の頭には今朝見たあいつの泣き顔が浮かんでいた。
同い年なのに随分違うもんだ。