「哲翔」
コーヒーを口に運ぼうとした瞬間声をかけられて、手が止まった。

「どうした?」
低血圧の咲良(サラ)が朝の9時過ぎからジムにいるなんて珍しい。
「哲翔こそ早いじゃない」
「まあな」
昨日は失踪騒動でバタバタしてしまったから、気分転換に一汗流しに来た。なんて言えない。

ジーッと顔を覗き込む咲良。

「何かあった?」
「別に」
「実家に泊ったの?」

えっ?
「何で?」
「その服、初めて見たから」

ああ。

「泊ってないよ。朝早く行ってきた。実家で着替えたからかな」
「へー」

ジムに併設されたカフェで、1週間ぶりに咲良とコーヒーを共にする。