プププ プププ。
携帯の着信。

時刻は朝8時。
画面を見ると、『母さん』の表示。

何事だ?

「もしもし」
『もしもし哲翔?』
「はい」

普段電話なんてかけてくることのない母さん。
きっと何かあったんだろうと想像はつく。
それもあまりいいことではないはず。

『おばあさまがお呼びなの。戻ってきなさい』
「何かあったんですか?」
『話しは戻ってから』
「おじいさまの容体に何か?」
『いいえ。快方に向かってらっしゃるわ』

じゃあ何なんだ。

『とにかく、今夜帰ってきなさい。お父様も早く帰るから』
「分かりました」
俺は言い返すこともできず、承諾するしかなかった。



「どうしたの?」
台所を片づけていた咲良が心配そうな顔をした。

「実家に呼ばれた」
「お爺様の容体が悪いのかしら?」
「違うと思うよ。持ち直したって聞いてるから」
「そう」
「そんなに心配するな。きっとたいしたことじゃないさ」

こういうときの憶測は大抵外れるとも知らず、俺は油断していた。