「虹子、大丈夫?」
客間に座り込んでしまった私を母さんが気遣う。

「母さんは知っていたの?」
強めの口調で問いかけると、母さんは困った表情をした。

「知らなかったと言えば嘘になるわ。でもね、2人が結婚を考える年齢になったとき、どちらかに付き合っている人がいればこの話は無かったことにしようって約束だったのよ。もちろん、こんなに早く結婚の話が出るとも思っていなかったし」

確かに、22歳の大学生には早すぎる。

「何で今なの?」
「あちらのお爺様の具合がよくないんですって」
「へー」

お爺様って事は当主の高宮哲之氏。

「もし当主に何かあればトップの交代って事になる。そうなったら継ぐのは一人息子の英哲さんって事になるんだが・・・」
父さんが言い淀んだ。

なるほどね。
現在総理大臣の座にある英哲氏が高宮家の当主となれば、色々と問題があるって事。

「もちろん英哲さんを飛ばしてって訳にはいかないだろうけれど、少なくとも高宮グループの企業経営は別の人に継がせなくちゃならないだろうからな」
「ふーん」
色々大変なのね。

「お前はあまり気にせずに会えばいい。会って断ればそれでいいから。父さんもまだ嫁に出す気はないしな」
「はい」
よかった。ちょっと安心した。