1時間ほどで戻ってきた哲翔さんは、何度か私の部屋をノックした。

私は無視を通し、寝室に逃げ込んだ。


廊下から、「虹子様も随分お疲れのようでしたので」と乃梨子さんの声。

哲翔さんは部屋に戻って行った。



哲翔さんは意地悪だけど、私のことを気遣ってくれる。

まだまだ生活に慣れなくて叱られることも少なくないけれど、許婚として大切にしてくれる。

でも、それは愛じゃない。

哲翔さんの恋人は咲良さんだから。

私の入り込む隙はない。

それに、私自身も哲翔さんを好きなのか分からない。


「馬鹿みたい」

ベットに潜り込んで口にした。


恋人のいる許婚と、好きでもないのに一緒に暮らしている私。

一体何をしているんだろう。


その晩、私は眠れないまま朝を迎えた。