大学が夏休みに入るのを待って、私の婚約者としての仕事が始まった。

まだ正式に婚約した訳ではないけれど、高宮家の若奥様として宮邸を訪れるお客様のお相手をする。


「虹子様、今日のドレスは少し裾を短くしてあります」

「はい」


乃梨子さんは必要以上のことは言わないけれど、「今度は自分でドレスの裾を踏まないでください」と言いたいはず。

現に、数日前に裾を踏んでつんのめってしまった私は危うく転ぶところだった。

同席した哲翔さんには「ただ真っ直ぐ歩くこともできないのか」と呆れられた。

それに対して「ドレスの裾が長すぎるのよ」と言ったものだから、私用にあつらえたドレスがすべて仕立て直しになってしまった。

本当に、申し訳ない。


きっとこれも哲翔さんに文句を言われるんだろうな。

「何で人の仕事を増やすことしかできないんだ」と馬鹿にされるのが目に見える。