これが“もらい泣き”なんだろうか。
チサトの告白に、
気付けば僕は涙を流していた。
どれ程深い傷を負ったのか・・
どれ程自分を騙し続けて・・
僕達に偽りの笑顔を見せていたのか。
1学期が終わろうとする頃、
チサトは学校を休みがちになった。
その間、彼女は病院にいた。
内科でも、外科でもなく・・産婦人科。
親の同意書が無くても、
“中絶”する事が出来る闇医者。
母親の彼氏の息がかかったそこへ連れて行かれ、
有無を言わさずチサトの体に器具が入った。
“金ならいくらでもある。
また連れてきてやるよ。”
手術が終わった直後に、
男がチサトに放った言葉。
その身に宿った命だけでなく、
チサトの心までも踏みにじった言葉。
「窪田、とりあえず親に連絡しろ。」
「なにを・・?」
「今日からしばらく俺ん家に泊まるって。」
「・・・・・・。」
「チサト、お前もしばらく俺ん家来い。
爺ちゃんが昔使ってた離れがあるから。」
終着点の見えない会話。
荒木の提案で僕達は屋上を出る。
入学式の日から今日まで。
僕が見ていたのは本当のチサトじゃなかった。
闇に覆われた心をこちらへ悟らせまいと・・・
毎日のように・・
抵抗できない力に抑えつけられ・・
自我を保つ事も出来ないほど痛めつけられた・・・・
今目の前にいる、
弱く・・おぼつかない足取りの彼女が、
本当のチサトだった。



