些細な動き一つで自分から漂う魔女の瘴気の残り香にはうんざりしてしまう。
かと言っても些細なもの。
こうして過敏に反応してしまうのは嗅覚が良すぎるから故。
とにかく匂いだけでもどうにかならんかと、ふらり一歩を踏み出しかけた瞬間。
「っ…!!」
ガシッと自分を捕らえ置いた力は実に強固。
足を止めた今でさえ不必要にもその力はソルトの腕を拘束しているのだ。
「……魔女の匂いがします。リッカくんから」
「っ……時雨さま?」
いつものふわふわとした口調とは異なる声音。
視覚で捉える表情もまたあの笑みではなく真顔。
それでも、その視線はソルトの双眸に向けられてはおらず、どこかソルトの纏う匂いを嗅ぎ別け見定めている様な。
それを証拠とする様に、
「……あの魔女の香りの他」
「……」
「違う魔女の匂いが混じっている様に感じられるのですが…」
『違いますか?』
そんな確認の様にここに来てゆっくりと絡みにきた時雨の紫色の眼差し。
瞬きすらせず嘘さえ見透かしそうな視線にはソルトの緊張も高まるというもの。
あの魔女の残り香の中、六花のそれなんて微々たるものである筈なのに。



