阿吽の呼吸と言うほど大袈裟なものじゃないのだが、今までの関係があったからこその二人の息。
魔女の気さえ逸らしてしまえばソルトは撃つと確信していた六花であるし。
撃っても六花なら確実に避けるだろうと確信していたソルト。
交わした言葉などない。
ただ、お互いを理解していただけ。
そんな状況の最中、ソルトを拘束していた杭はグニャリと原型を無くして最後はパッと消えてしまう。
それはまさに魔女の力が無力化された事を意味しており。
特に魔女本人は改めて視覚で捉えずとも嫌と言うほど己の体の不自由さで理解させられていたのだ。
「っ…あぁぁぁぁぁ!!わ、私の…嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
まるでこの世の終わりの如く。
美しい顔を絶望に歪め、尚も諦め切れないとばかりに仕切りに両手に意識を集中させたりしている姿は実に哀れ。
かといって同情するほど生易しい感情移入が出来る筈もない。
力を奪われて妥当である所業をしたのだ。
然るべき力の剥奪であり、更なる処罰の判断はソルトより上の管轄だ。
つまりは、この魔女を本部に連行し引き渡せば任務の終了となる。
そこまで頭を働かせれば流石に張り詰めていた糸も緩んで脱力してしまうと言うもの。
「あ〜、」なんて抑揚のない声を漏らして再びゴロリとコンクリートの地面に寝転がるのも致し方無い。
魔女の瘴気が消え幾分か楽になったとはいえど、取り込んだ分のそれらはしっかりとソルトの身体を蝕む様な名残りを見せているのだ。
杭は消えても傷までもが消えるわけでもなく、痛々しくも空いた風穴からは未だに血がじわじわと流れる始末。



