体調からの生理的な涙。
それでも…。
情けねえな。
手も足も出ねえ。
でも、正直こんな匂い攻めのような攻撃を受けるなんて想定外だった。
てっきり近づいた傍から生き死にかけた戦場になるんだと。
俺なんか捕まってしまえばあっさり殺されるものだと思っていたのに。
ただ攻撃される分にはまだいくらか戦いようがあったものを。
こんな風にまともな機能を不能にされたんじゃ…。
まして、今日は俺にとっては不利も不利の満月ときてる。
狼の自分の鼻じゃ他の魔混じり以上にこの匂いに負かされる。
色々とこの魔女の出方と相性が悪すぎる。
それにしてもだ。
何でこんな戦い方をする?
こうして不能にした今も何故殺さない?
あれだけの事をした魔女が今更俺の命を奪うのに躊躇ったりする筈もないだろうに。
意図がまるでわからねえ…。
そんなソルトの疑問を読み取ったかのように。
「……『何で?』」
「……」
「そんな顔してる」
「………」
「何でこんな事をしてるのか。何で自分を殺さないのか」
「……」
「殺さないよ。……少なくとも今は」
今……は?
「折角手に入れた魔の気の男だもの。今のところあなたが私の旦那さま候補の記念すべき一人目ってとこ」
「っ……な……」
「ああ、ちょっと違うわ。欲しいのはあなた自身じゃなくてその子種なの」
「っ!!?」
『安心してね』なんて魔女の補足なんて聞き流しだ。
前部の発言に対する衝撃の方が大きすぎる。
同時に事の意図をようやく理解したのだ。



