まるで…、
六花の……呪いみたいだ。
「……あら、まだ笑う?ビックリするくらいタフなのね」
「はあっ……はっ…」
「さすがに軽口を叩ける余裕はないわよね。寧ろこれだけ濃い魔女の瘴気の中でよくまだ理性が続くものよ。お兄さん…魔混じりの癖に」
「っ……」
「そうでしょ?じゃなきゃ、こんな風に私の瘴気に中てられて苦しむはずがない。私が欲しいって渇望する筈がない、」
「触んなっ、」
「っ……!?」
動けない筈であるのに。
声すら発する事も困難である筈なのに。
そんな魔女の予想をあっさり裏切るが如く。
這いつくばるソルトの前で、身を屈めた魔女がその手を伸ばし誘うような仕草で頬に触れるや否や。
驚くほど俊敏にその手は振り払われはっきりとした拒絶の声が響いたのだ。
動けも喋れもしないだろうと思っていたソルトの口から。
そうして……補足。
「てめえが欲しいだとか……勝手に決めつけて己惚れんな……」
「……ますます…変なお兄さん。魔物であるなら無条件で惹かれるのが魔女の色香だっていうのに。現にあなたの中に流れる血は正直に滾って魔女を食らおうと意識まで蝕んでる筈なのに……」
「はあっ……はっ…」
「ましてや……満月。魔の強まって研ぎ澄まされた感覚にはいつも以上に作用してその効果は薬物並よ?ほうら、意志に反して体は限界だと涙の膜まで張っているのに……」
そんな魔女の声近く遠く。
朦朧とした意識で虚ろにも聞き入れた時には生理的な涙がソルトの頬を伝ったのだ。



