この場所ではない別の場所。
それでもきっと今自分達が体感したような事態と同じ事がその場で起きているのだろう。
いつも以上にクリアに耳に届く音声はソルトには実に生々しく痛々しい。
その中に苦痛の声音まで混じれば自分がそれを負ったように表情まで歪んでしまうのだ。
その次の瞬間には、
「ソルトッ、」
反射的に駆け出していた体は迷うことなく魔女の気配を感じる方角へ。
六花の引き止めるような呼び声すら今のソルトには程遠く、寧ろ自分より遠い場所の音を聴き取りながら風を切っていたのだ。
走れば走る程嗅ぎ取る魔女の匂いは濃く甘く。
その誘惑的な匂いに複雑にもソルトの中で相反する二つの感覚が入り混じる。
悪行を為した犯罪者への憤りや憎悪で満ちてくれていたらどれほど楽であるのか。
それでも、どんどんと滾っていく血と興奮は決して正義感からの感覚一色ではなく。
『オイシソウ』
そんな、酔いしれた思考をチラつかせてソルトの熱を高めてくるのだ。
やっぱり…妙だ。
いつもと言えばいつも。
それでも、いつも以上に逆上せ上がるような熱を孕む感覚は満月の影響か?
満月の日はいつだって言いようのない渇望に苛まれる煩わしい日ではあるが。
それでも……今この瞬間は煩わしいとも言い切れない…か。



