六花の出生にどんな秘密があろうと自分の隣に居てこうして笑ってくれている。
馬鹿みたいに前向きに好いてくれている。
六花が言う様に今までも六花を探し出し追いかけてくるような者はいなかったのだ。
だったら敢えてこちらから掘り下げて近づく必要もない。
この平穏が続くのであればそれで。
まあ……問題山積みのカップル事情ではあるけどな。
寧ろそんな出生の問題より現在進行の魔女問題だろう。
今だってだ、澄ました顔でさらりと隣り合ってはいるソルトだが、満月効果でいつも以上に六花の匂いに眩んでいる状態。
口元に珈琲を近づけることで何とか誘惑的な匂いを誤魔化そうとしている程に。
それでも一瞬の気休めにすぎない誤魔化しは、カップを離せば途端にクラリと頭が逆上せるのだ。
コレ…マジに理性保てるかな俺。
なんてソルトが改めて溜め息を漏らしたタイミング。
一瞬よぎった違和感に苛んでいた誘惑の香りを忘れたのだ。
そうして、スンッと改めて感じる匂いを嗅ぎ分けると無意識に視線は店の外へと移行する。
甘い……匂いがする。
六花の匂いとは別に。
それでも六花の匂いと似た類の甘い匂い。
「……ソルト?」
そんな六花の呼びかけすら聞き逃す程の意識の集中。
間違いない。
魔女だ。
魔女がいる。
そんな答えを打ち出した時にはすでにソルトの足は店の外へと歩み始めていたのだ。



