「リッカ君の言う通り、困った事にお嬢さんのリッカ君への執着…愛情は並じゃない。それに体質上いくら薬を施しても彼女の心は治癒され元に戻ってしまう。自我が戻る前に投与を繰り返すなんて手もありますが…」
「そんな事をすれば薬その物に免疫が出来てしまうではないか」
「その通りなんですよ水月。どんな薬でも接種し続ければ効果は薄れていく。いずれ彼女の自我が修復されるのは必至。それではいつまでも僕の求める夜音としては手に入らない」
「それは、他の新薬を作ろうと末路は同じぞ。どんなに他者が壊そうとしようが外部からの浸食に六花の血肉はそれを害とみなして排除する。お前の望む自我を失った六花など手に入らぬという事だ」
「本当、そこなんですよ。どうしたものかと頭を悩ませる問題でしてね。悩んだ末に……発想の転換にたどり着いたんです」
「発想の……転換?」
「そう、押してダメなら引いてみろ的な実に単純な転換ですよ。外部が無理なら内部から」
「内部……」
「壊せないなら…………壊れてもらえばいいんです」
「っ____」
決して時雨に対する警戒を緩めていたわけではなかった。
いつどんな行動を取り、どんな攻撃で六花を奪い返しにくるのかと感覚を研ぎ澄ませて構えていたのだ。
百夜もソルトも。
それでも、どこまでも緊張感のない時雨の姿は微笑みを携え己の狂気を語るばかりでその場から動く気配はなく。
不動の気配はその瞬間まで。



