「攻守交代だ、」
そんな百夜の呟きが弾かれた時には既に時雨の目前に迫っているソルトがおり。
今まで溜め込んだ憤りを溜め込む様に拳を振りかぶっていたのだ。
全て瞬く間の接近と攻撃と。
その気配も感じさせなかった俊敏さには時雨も「おや、」なんて意表を突かれたような声を漏らしたほど。
まともにその姿を双眸に映した時にはソルトの拳は自分に向かって振り下ろされ始めている瞬間。
それでも、時雨の表情が驚愕や畏怖に染まる事はなく。
次の瞬間には時雨の身が倒れ込むことになるのは必至。
で、ある筈だったのだが。
憤りを孕んだ拳は時雨の身を一切掠める事はなく、寧ろ突如巻き起こった風が鋭利な刃物の様にソルトを攻撃したのだ。
攻撃を阻み時雨を守るように。
とは言え、ソルトの方も瞬時に危険予測が働き後退していたために負傷なんて物はない。
それでも、目の前の光景と事実には痛々しく表情を崩してしまう。
時雨の前に立ちはだかりソルトに敵意の眼差しを向けている六花の姿には。
「時雨に手を出すなんて許さない」
「っ……六花、」
「違う。私は夜音。六花なんて知らない。あなたの事なんか知らない」
一つ一つ突き刺さる様な鋭利な言葉の刃物。
冷たく全くの情を揺らさない澄んで無垢な水色の双眸。
確かに、愛おしく想い合っていた存在であるのに。



