そんな百夜の姿に時雨の表情は変わることなく、緩やかに弧を描いた唇から同じ様な失笑を漏らしてみせ。
「恨むだなんて。確かにあなたを恨んだ日もあった様な気がしますが。今は感謝していますよ水月。あなたのおかげで今こうして夜音の依り代を手に入れられたのですから」
「……」
「所詮、あの子は魔力で生み出した紛い物。人しては実に脆く不完全で消滅するのは時間の問題だったんです。それを、あなたと結ばれた事で本当に人としても完成された依り代を生み出してくれた」
「…紛い物とまで言うか、花鳥を」
「紛い物でしょう?魔力で構築した空間でしか生命も維持出来なかった脆い存在。だけど、この子は違う。この容姿も、能力も、魔女の香りさえも夜音のそれに類似する」
「花鳥の次は僕の娘か」
「あなたはあの子を私から奪った。僕はあなたから娘を奪う。ウィンウィンでおあいこな話でしょう?」
「フッ、そうさね。…我らの内ではな、」
百夜と時雨の蟠りの内であるのなら。
やってやられて、盗って盗られて。
子供の喧嘩の理屈の様ではあるけれど、確かに時雨の言い分に百夜が反論出来る筈もない。
ただ、最早百夜と時雨だけの話ではないのだ。
その理屈に当てはまらない、納得出来る筈のない男が1人。
それを分かっているから百夜の口元は今もニヤリと弧を描いてみせるのだ。



