それでもまだ半信半疑。
いや、ソルトに至っては淡くも認めたくないのが強。
「………六花?」と、再確認の様に名前を呼んでしまう程状況の把握が出来ていないのだ。
だって、違うだろう?
匂いだって間違えるはずがねえ。
六花だよな?
六花なのに…、
俺を見る目が…六花じゃ…ない。
発した声音にそんな不安と疑問を乗せて、六花の反応を待ちながら見つめ抜いていれば。
それまでなんの動揺も見せずただただ澄んだ水色の眼差しを返していた六花が、ようやく静かにその身を立ち上げるとコテンと小首を傾げて見せてくる。
そうしてコロコロといつも通りの愛らしい声音で響かせてくるのは、
「……【私】の名前は夜音だよ。時雨がそう教えてくれた」
残酷で無情なる事実。
「っ……六花!」
「……それと、私を【六花】って呼ぶ人達は悪者だって」
「なっ…違っ……」
淡々と語る六花の眼差しは無垢であるのに、無垢である程発せられる一言は毒を孕む。
悪気なんてまるでない。
教えられた善悪をただ信じて口にしている純粋な子供のままなのだ。
純粋に、ソルトを悪だと認識している。
そんな六花の変貌には流石のソルトもなにから言葉を突いていいのか分からないのだ。
冷静になろうとする程困惑ばかりが強くなり、向けられる情のない六花の眼差しに畏怖さえ覚える。
なんでこんな。と、ソルトが困惑に硬直している横でである。
「時雨に六花としての自我をリセットされたな」
今まで状況を冷静に分析していたらしい百夜が、まさに予想していた通りだと言わんばかりの結論を発したのだ。
百夜にとっても最悪の予想通りに。
記憶が戻った刹那からこの事態は予測できていた。
それでも、何とか阻もうと説明も後回しに六花の元へと駆け付けたというのに時すでに遅かりし。
なんとか間に合えばと淡くも願っていたが、対面する六花はすでにガラリと雰囲気を変えて別人と変わり果ててしまっていた。
ソルトでさえも他人であると認識する程に。



