今の今まで穏やか一色であった時雨の笑みに混色したのは哀愁だろうか。
その目は確かに六花を通して別の誰かに想いを馳せていて。
懐かしむ様に六花の頬を撫でてくる。
優しい力で。
愛おしむ力で。
どれだけ愛していたのかが伝わる程に。
時雨の口ぶりで大凡の恋の顛末は予想はつくのだけども。
「叶わなかったって…。それはこれからも続く未来形でもあるの?」
ついつい言葉にして聞いてしまったのは本当に疑問として聞いたのではなく、違う形でも叶う幸せとやらがあるんじゃないかと思っての事。
寧ろ、幸せになってくれないだろうか。と淡くも願う程に寂しげな笑みであったのだ。
そんな六花の願掛けの一言には時雨の笑みに再び穏やかさが舞い戻り。
チョコレートの包みを一つ剥ぐと、お礼とばかりにそのまま六花の口に放り込んだのだ。
「……お嬢さんが言った通り、僕は不器用に一途すぎるんですよ。本当…お嬢さんと一緒だ」
「一緒って……」
あれ?
なんか……
「お嬢さんの生きる理由がリッカくんである様に、僕の生きる理由も…欲する電池も彼女だけ」
身体が……重い…。
この感覚は覚えてる。
「僕を人間らしく生かしてくれるのは彼女だけなんですよ」
「っ……」
マズイと危機感を覚えた時とは大抵手遅れというもの。
時雨の甘さや哀愁に目が行き過ぎていて裏でチラついていた狂気に気付く事が出来なかった。
ようやく捉えた時には六花には不利な状況が出来上がってしまっていたのだ。
逃げようとしたところで無意味。
咄嗟に逃げようと踏み出した足も身体も次の瞬間にはピクリとも動けぬ感じに硬直してしまったのだ。
そして、この感覚もまた覚えがあるのだ。



