あり得る筈のない事続き。
あり得る筈のない甘い匂いに、突如降って湧いたピンクの羊。
間違いなく六花の魔力。
確かに消しさった筈の魔女の力。
それが何の間違いかこうして復活してしまったのだ。
やはり六花の演技であったのか?
否、確かに先程まで魔力の気も匂いも一切していなかったのだ。
つまりは確かに魔女ではなかった。
現に目の前の当人もこの事態に疑問の眼差しを見せているのだから。
それでもどうしてもなのだ。
どうしてもありえない瞬間は予想外すぎて思考がままならないもので、
「…な、なんで…だ?」
「い、いや……それ、僕も聞きたい」
「っ…なんでっ、なんでいきなりこの大量の羊だっ!?」
「あっ、そっち?えっ?そっち?」
「ちげぇぇよぉぉぉ、いや、違くなくて、この羊も含めっつーか……汲んでくれっ」
ソルトとて本気で羊の詳細を訪ねたいわけではなく、微々たる現実逃避の類である。
事実の答えは既に自分で打ち出しているのに、その答えの都合の悪さから答え合わせを渋っているような。
かと言ってこうして逃げ仰せられる現実で無いことも百も承知。
ようやく困惑が鎮静化し始め理性が回帰し始めてくれば諦めの一吐きののち、
「……魔女子復活ですか?」
「……み、みたいです…ね」
ようやく核心に触れたのである。
触れてはみてもやはりと言っていい手応えのない六花の返答。
実に曖昧な響きに曖昧な表情は六花自身この事態に困惑しているのは明確。
そんな姿に『何故だ?』といくら問いかけようが無意味。
結論、現状打ち出される確かなる答えはない。
そう結びついてしまえばいくら心が急いてみようが為せる術はない。
頭を抱えながら重苦しい失意の溜息を吐く事以外は。



