「っ………」
「くくっ、一瞬にしてゆでダコに逆戻りだぞ、六花」
「っ〜〜な、なま…名前…いま、今…よよよよよば、呼ば…呼ばな…いで…」
「フッ…六花」
「っ〜〜ふぁわわわわぁぁぁっ」
「っ…!!?」
自分の名前の価値に気がついてしまえば途端にキャパオーバーの再来。
いや、先程より更に。
名前の由来を知ってしまった今その名を呼ばれる事さえ聴覚が刺激されてしまって。
そんな六花の姿にソルトもSっ気を擽られ意地悪のゴリ押しをしてしまったのだが…。
一体何が起こったのか。
六花が奇声を発した瞬間まではソルトも笑っていられたのだが。
刹那に鼻を掠めた馴染みある匂いには瞬時に理性が頭をもたげた。
この匂いって…。なんて疑問の答えが弾かれるより早く、僅かであった疑念の香りが爆発したように周囲に広がり匂いを増したのだ。
それと同時、突然ドサドサと天井から落下してくる複数の物体にソルトも六花も埋もれてしまったのだ。
当たっても決して痛みはない。
埋もれたけれど重くもない。
寧ろ、ふわふわモコモコとした…。
「ひ……ひつ…じ?」
上手く働かない頭を後回しにとりあえず視界に捉えたそれらの判別をしたのはソルトだ。
そう、なぜだか大量の羊のぬいぐるみが散乱としているのだ。
見渡す限り部屋中に。
しかも何故だか…ピンク色の。
そうして、無情にも鼻腔を刺激する馴染み深い甘い甘い誘惑的な香り。
誤魔化しようのないそれにはあまりの衝撃で口の端さえヒクつかない。
落胆さえ後回しに今はただ驚愕が大なのだ。
だって…何で?
そんな答えを求める様に目の前の羊の山を一つ二つと取り除けば、ようやく気まずそうな水色の双眸と対峙したのだ。
そうして、お互いに数秒の沈黙ののち、
「「なんで?」」
綺麗に声をハモらせてお互いに問いかけたのだ。



