普段はなんとも感じない廊下がえらく長く感じる。
歩いても歩いても終わりがないんじゃなかろうか?なんて自分でも馬鹿げた思考だと思いつつ。
それでも……遠い。
なんとかすれ違う同僚や上司には会釈や挨拶はしていたと思う。
時折『大丈夫か?』なんて声もかけられ返答もしていた筈。
それでも何をどう返していたか記憶も定かではないのだ。
とにかくなにか失態を仕出かして無ければいいとその瞬間をやり過ごして、ようやく本部の玄関口にたどり着き火照った身体に夜風を得たのだ。
分かってはいたけど……しんどいな。
夜風を肌に感じて心地が良いなんて思ったのは一瞬。
すぐにそれを上回る月光の光に蝕まれて気怠さが増したのだ。
魔混じりの神父が多い本部の建物は満月の影響を受けにくいような魔力を施されている。
だからこそソルトもまだ気丈に過ごしていられたのだが。
一歩外に出てしまえば魔女の瘴気負けにプラスされる自分の魔混じりの血の滾り。
思わず歩みも止まりしんどいと歯を食いしばって眉根を寄せてしまう程。
とにかく……帰らねば。
帰って何とか寝込んでしまえば数時間後の夜明けにはこの苦悶からも解放される。
帰らないと。
……でも、帰れる…か?
怠い……足が…重い。
………キツイ。
今にもギリギリ保っている意識がプツリと切れそうだと、それを何とか阻むように額を抑え込んだ刹那。
過敏な嗅覚がピクリと反応て拾い上げたのは甘い香り。
甘くて誘惑的な……。
「本当、いい様に使いたまえよ」
「っ…」
六花の匂い。



