百夜はそれこそ時雨にまで一目置かれる博学者であるのだ。
物を尋ねれば大抵はその記憶を掠めるものがあり、助言や己の見解を語ってくれる。
そんな百夜からしても六花と言う存在は未知のモノとされたのだ。
ソルトだって普通とはかけ離れた魔混じり。
普通とは規格外で、存在を知られてしまえば化け物と呼ぶ者もいるだろう。
そんなソルトなのだ。
今更六花が何者でも気持ちが揺らぐ様な事はない。
それでもやはり謎めいた部分に触れてしまえば答えを知りたいと思ってしまうし、謎が深まれば小さくも言いようのない不安が滲む物。
未知が故に突然にも目の前から消えてしまうのではないかと。
「……とはいえ、」
「えっ?」
「あくまでも現状の僕の記憶の上ではってとこだ」
「…………へっ?」
「僕の足りない記憶の中には……もしかしたら彼女はそう規格外でもなかったかもしれないって事」
「………あ、……あの呪いで飛んでる記憶の事か?」
「そっ。………まあ、断言はできないけどね。それでも今の僕の知識よりかは脳内の目次は豊富だったと思うんだ」
「今より更にかよ…。お前本当に何者?」
「………さあ?それが分かればもうとっくに元の姿に戻ってるだろうさ」
「はぁ…何にせよ現状では手詰まりって事に変わりはねえな」
「まあ、流石にちょっと興味深いから僕も出来る限り調べておいてあげるよ。丁度こうして話してる間に手の再生も終わったみたいだし、今日はお開きってところでしょ?」
ピッと煙管によって指し示られた先は風穴の空いていた手の甲。
それでも視界に収めた今はしっかりと塞が痛みすら消えつつある。



