一瞬と言っても見間違いなんて範囲の短さや不確かではない。
確かにはっきりと変色していた六花の眼。
それも一度ではなく数度。
魔女の瘴気を食らっていた時と…。
アレは、どんな時?
先程の百夜のそれはおふざけにしても、六花の時は違う。
あの時、六花はどんな匂いをソルトに感じたというのか。
甘い匂いがする。とソルトに詰め寄った姿はそれこそ酒や薬に酔いしれた様な微睡みを見せていた。
堪らないと言いたげに迫った六花は今にもソルトに食らいつきそうな勢いまで感じられたのだ。
あの一瞬はソルトの渇望を上回っていたであろう六花の渇望。
「…百夜、魔物や魔混じりが魔女に甘い匂いを感じる様にその逆もあったりするものなのか?」
「逆っていうと…、魔女が僕らにそれを感じるかって事かい?」
「甘くて美味しそうな匂いがする。…そう言われたんだ。今まで一緒にいてもそんな事言わなかったのに」
「それを言い出した時に紫の瞳だった。って、解釈でいいのかな?」
「ああ、…多分その二つは関連してると思うんだ」
どちらも今日が初めての六花の異変。
補足すれば毒性の瘴気を同じように甘いと称して食らい平然としていた事も。
他の人間とは違う幼少期の生い立ちや自我の成り立ちから全て。



