「入江のお人好し。その子が幸せでも、入江自身が苦しんでたら意味ないじゃん」



呆れたような言い方。だけどその声には優しさを含んでいる。



「……でも、そういうところが入江らしくて愛しい」



頭を撫でられたまま視線を静へ向ける。

こちらを見つめた彼の瞳は、穏やかで柔らかな色。



私、らしい……。

私はこんなにも、弱くてかっこ悪くて、情けない。

だけどどんな私を見ても、静は向き合い、優しく包んでくれる。

そんな静の前だから、甘えてしまう。寄りかかってしまう。



堪えていた感情が溢れ出して、涙がポロポロとこぼれ出した。

頬を伝う大粒の涙は、とめどなく溢れてくる。

それを見て静は撫でていた頭をそっと抱き寄せた。



背中に腕を回し、体を包み込んでくれるように抱きしめる。

そんな彼の胸に顔を寄せ、ぎゅっとしがみついた。





ずっと、苦しかった。悲しかった。

だけど泣けなかったのは、泣いたら弱さに負けて立ち直れない気がしたから。

でも静は、その弱さも涙も、受け止めてくれる。



子供のように思い切り泣く私に、静はずっと優しく抱きしめてくれた。

そんな時間を過ごすうちに、涙とともに胸につかえていたものたちも少しずつ流れていった。



ようやく涙が落ち着いて顔を上げると、静のスーツを涙とにじんだマスカラで汚してしまっていたことに気がついた。

だけどそれを見ても、静は笑う。



その優しい笑顔が彼らしくて、私もそんな彼だから愛しいと、そう思った。