「入江、大丈夫?どこか怪我とかしてない?」
「うん、大丈夫……」
そう答えて、なんともないフリをしたいのに。うまく呼吸ができない。
あの女性と彼が重なって、別れを告げられた時の悲しさや苦しさが一気に押し寄せる。
だんだんと喉が締まる。
肺が詰まったような感覚を覚え、呼吸が短く激しくなっていく。
「入江!?」
『大丈夫』、そのひと言すら出てこない。代わりに出るのは「ハッ、ハッ」という細切れの息だけ。
過呼吸を起こしているのが自分でもわかった。けれど、どうしていいのかがわからない。
息ができない、苦しい。でもどうしたらいい。
パニックになってしまい全身から汗が噴き出す。
「入江、ちょっとごめんね」
するとそんな中、静はそっとささやいて私の背中へ腕をまわす。
そしてお姫様抱っこの形で持ち上げると、そのまま事務所へ運び、所長室のソファに座らせた。
「大丈夫、大丈夫だから。ゆっくり息しよう?」
柔らかなソファの上、静はそう言って優しく私の背中を撫でる。
「吸って、吐いて」
私の呼吸を整えるよう、ゆっくり声をかけてくれる。
それにあわせて深呼吸を繰り返すと、徐々に落ち着きを取り戻していった。
しばらくして、ようやく呼吸が落ち着いた私に、静は給湯室の冷蔵庫から持ってきた水のペットボトルを手渡した。
キャップを開けひと口飲むと、水の冷たさが喉の息苦しさをすっきりと溶かしてくれる。



