な、なに今の……!
今頃彼は、私の大げさな反応にひとり笑っているのかもしれない。
だけど冷静に流すことなんてできない。
耳に声が残って、熱い。
ていうか、静って平然とああいうことするようなタイプだったっけ……。
少しの間、給湯室でカップを洗いながら全身の熱を冷ます。
そしてようやく平常心を取り戻し、事務室へと戻った。
仕事して気持ちを落ち着けよう……。
そう思いながら席に着き、デスクの上のスマートフォンをなにげなく見る。
するとそこには『不在着信1件』の文字が表示されていた。
電話……誰だろ。
映美かな、と着信履歴を見る。
ところがそこに表示されていたのは『上原さん』の名前だった。
え……上原、さん?
なんで今になって、電話なんて。
その名前を見た途端、脳内にあの日の記憶が一気によみがえる。
幸せだった日々、それが一瞬で崩れた日。
『……ごめん、果穂』
去って行く、背中。
思い出すだけで、胸が強く締め付けられる。
震えだす指先で画面に触れて、私は電話をかけ直すことなく着信履歴を削除した。
忘れたい。
こんな自分の弱さも情けなさも、誰にも見られたくない。
……静には、特に。
胸の中で小さくつぶやいて、スマートフォンをバッグにしまうと仕事に戻った。



