その翌日のことだった。

いつも通り出社すると、オフィスの中はなにやらガヤガヤとにぎわっていた。



ブランドごとにいくつものデスクが向き合い島を作る中、女性社員たちがところどころに集まり話をしている。

さらには普段滅多に顔を合わせることのない、隣のオフィスの別ブランドの人たちまで集まっている。



なにかあったのかな……。

その光景を横目に、部屋の奥にある自分のデスクに向かおうとした。



「ああもう、ショックー!まさかあの上原課長が結婚するなんて!」



ところが、その瞬間聞こえてきた会話に思わず「え!?」と声が出た。

その私の声に、声の主である女の子は驚いた顔をする。私に話しかけていたわけではないのだから当然だろう。



「あ、ごめんなさい。驚いて、つい」

「あはは、そうですよね。入江チーフもびっくりですよね!」



そりゃあ、びっくりもなにも……。

まさか私自身がプロポーズされる前に、結婚話が広まっているなんて。



もしかして昨日部長と飲みに行くって言っていたし、そこで部長に話して、そこからみんなに広まったという感じかな。



さすが人気者の上原さん、結婚話となれば女性たちの間でこれだけの騒ぎになってしまうわけだ。

けど、これでもう付き合っていることを隠さなくていいわけだし、私としてはちょっと気が楽だ。

けどどんな顔をしていいかがわからない。またにやけてしまいそう。



だらしなく緩みそうになる口もとに力を入れて、企画課のデスクに着く。

するとそこでは上原さんが、女性社員たちに囲まれていた。



「上原課長、結婚するって本当なんですか!?」

「いや、それはその……」



彼としてもここまで騒ぎになるのは予想外だったのかもしれない。困った様子で答えながら、観念したように息をひとつ吐く。